インタビュー

木漏れ日のようにあたたかい場所を目指して。「hair salon Komorebi.」オーナー美容師kai.さんが語るお客様への想い

岐阜市内の閑静な住宅街の一角に、一席だけの小さな美容室があります。

2020年秋にオープンした「hair salon Komorebi.(ヘアサロン コモレビ)」。

「一人ひとりのお客様に丁寧に向き合いたい」というオーナー美容師kaiさんの意向で、予約は一人ずつのプライベートサロン。周りの目を気にせず、リラックスして過ごせる隠れ家のようなお店です。

店内は観葉植物やドライフラワーがセンスよく飾られ、緑でいっぱい。白い格子のガラス戸からはおひさまの光が心地よく差し込み、まさに「木漏れ日」のようなあたたかくやさしい雰囲気に包まれています。

このお店を一人で営むオーナー美容師のkai.さんは、子育てに奮闘中の2児の母でもあります。数か月前まで他店でパート美容師として働いていましたが、ライフスタイルに合わせた働き方を実現するために、独立を決意。自宅をリフォームしてお店を始めました。

子どもたちと過ごす時間も大切にしながら、kai.さんがつくるのはどんなお店なのでしょうか?そして、彼女が目指す理想の美容師とは…?

シャンプーの香りがふわっと広がる「hair salon Komorebi.」で、美容師kai.さんのお話をうかがってきました。

PROFILE

kai.(カイ)さん
美容師歴12年。2児の母。美容学校卒業後、岐阜県内の美容室2店舗を経て、2020年「hair salon Komorebi.」をオープン。
一人ひとりの好みやライフスタイルに合わせたスタイルの提案が好評。ヘッドスパはするのもされるのも好き。

「美容師が好き」から「自分にはこれしかない」へ

カット風景
——さっそくですが、美容師を目指したきっかけを教えてください。

kai.:昔から絵を描いたり何かをつくったりするのが好きで、高校卒業後に美容学校に進んだのが始まりです。

美容学校に入ったのはオープンキャンパスに行って楽しそうだったからなんですけど、振り返ってみるとちゃんと仕事にしようと思ったのは、授業で行った職場見学がきっかけだったのかな。

——どんな職場見学だったんですか?

kai.:着物屋さんで、成人式の前撮りに来ていた女の子の着付けの様子を見学させてもらったんです。

そのときに、最初はめちゃくちゃ不機嫌そう〜に座っていた子が、振袖を着せてもらって髪もメイクもキレイにしてもらったら、もう別人みたいにキラキラして笑顔になっていたんですよね!

それを見て「美容の力でこんなに人を変えられるんだ…!すごい!!」と衝撃を受けて、私も美容の仕事で生きていきたいと思うようになりました。

——そして卒業後に美容師の道へ…!実際に美容師として働き始めていかがでしたか?

kai.:最初に就職した美容院はいくつか店舗を展開する大きいお店だったので先輩もたくさんいたんですが、みんなおしゃれでおしゃべりも上手なんですよね。私はセンスもないし、話も下手で「美容師向いてないな…」と思いました。

でも自分で決めたことだし、せめてアシスタントからスタイリストになるまでは頑張ろう!と思って毎日必死でした。

——アシスタントさんは閉店後も夜遅くまで残って練習も大変なイメージがあります。

kai.:そうですね。基礎練習にはすごく厳しいお店だったので、シャンプーやカットの練習も大変で、休みもあまりなかったです。

でも、練習が厳しいとか休みがないのはそこまで苦ではなかったかな。結局全部自分の身になってお客様のためになることだから。

今はお客様から「kai.さんのシャンプーは気持ちいい」って言ってもらえることが多くて、あの頃厳しく指導してもらえたおかげかなと思っています。当時は大変でしたけどね(笑)。

シャンプー風景
——辞めたいと思ったことはなかったですか?

kai.:お店に入って3年ちょっとで無事スタイリストにはなれたんですが、実はその後しばらくしてストレスから体調を崩してしまい、最初のお店は辞めてしまって…。

美容師は好きだったけど正直向いてないと思っていたし、1回他の仕事をしてみようかなとも思ったんです。

でも、そのタイミングで友達の子どもが入院しちゃって、髪を切りに来てくれないかと頼まれて。で、行ったはいいもののスタイリストになりたてだから全然上手く切れなかったんですよね。

そこで初めて自分の甘さに気づかされました…。辞めるにしてもこんな中途半端じゃなくて、ちゃんと自分が納得するまでやり切ってからにしようと思ったんです。

——そこで美容師を続ける決意をされたんですね。

kai.:結局他にやりたい仕事もなかったし、美容師の仕事はやっぱり好きだし、あきらめたくなかった。

ここで辞めたら絶対他の仕事をしても上手くいかないし、劣等感を持ちたくなかったんです。

——「劣等感」というと?

kai.:その頃、周りの友達は大学を卒業して就職したタイミングだったので、それなりにお給料をもらってきちんと休みもあって…っていう状況だったんです。

私は自分が望んで大学に行かなかったのでそれはいいんですけど、その子たちと比べて自分は仕事も中途半端で…って劣等感を持つのが嫌だった。

自分がなりたくて美容師になったのに、ここで手放したらほんとに何もなくなっちゃうと思って。

今までは好きでやってきたけど、ちゃんと向き合わないといけない。自分には美容師しかないから、これを極めないといけないんだって思うようになりました。

カット手元

——一つのターニングポイントだったわけですね。その後、次のお店に?

kai.:そうですね。大きい美容院だとなかなか一人のお客様としっかり向き合えないもどかしさもずっとあったので、もう少し小さいお店を探しました。

それまでも私なりに一人ひとりに向き合ってやっていたつもりなんですけど、どうしても大きいお店で一人のお客様に丁寧に対応するには限界があるし、予約もいっぱいまで埋められるのでいつも時間がギリギリで焦ってしまって、それがお客様にも伝わるし…。

それで、見つけたのが最近まで働いていたお店です。女性オーナーが子育てをしながら自宅の隣にお店を構えて少人数でやっているところで、アットホームな雰囲気がいいなと思って決めました。

コロナで直面した子育てしながら理想の美容師を追求する難しさ


——kai.さん自身もその後結婚されて、お子さんも二人生まれていますよね。以前と働き方は変わりましたか?

kai.:そうですね。長男を生んで仕事に復帰してからはずっとパートで勤めていました。

——子育てと美容師の両立は大変そうです。

kai.:仕事は好きだし頑張りたいんですが、どうしても働ける時間が短くなるし、子どもが熱を出して急遽仕事を休まないといけないこともあって。そうなると他のスタッフにもお客様にも迷惑をかけてしまう。

そのことでずっと引け目を感じていました。でも、子どもとの時間も大切にしたいし…。

——それで独立を考えるように?

kai.:そうですね。どうしたら子どもとの時間も大切にしながら、お客様一人ひとりにしっかり向き合っていけるんだろう?と考えたときに、自分でお店をやるのが一番いいのかなって。

それから、数年前…まだ20代の頃に同級生の友達が病気で亡くなったことも大きいかもしれません。

それまで若くして病気で亡くなるなんて、テレビや映画の中でしか見たことがなくてあまり現実的に考えたことがなかったし、その友達もすごく元気な子で病気になるなんて思いもしなかったんですよね。だから「本当にこんなことがあるんだ…」とショックで…。

生きているうちにちゃんと自分がやりたいこと、自分にできることをやろうと思うようになった一つのきっかけでした。

なので数年前から漠然といつかは独立したいというのは頭にあったんですが、本格的にやろうと決めたのはコロナがきっかけです。

——わりと最近…!

kai.:コロナでいきなり子どもの学校と幼稚園が休みになったので、仕事に行けなくなって。それまでも子どものことでお店に迷惑をかけることが多かったのに、さらに仕事と子どもを天秤にかけて考えないといけないことが増えてしまったんですよね。

家でお店をやれば子どもの都合に合わせながら、お客様一人ひとりにも合わせられると思って決断しました。

——自宅でお店をやると決めて、ご家族の反応はいかがでした?

kai.:幸い家族や周りの人はみんな「いいやん!やりなよ!」って賛成してくれて、応援してくれたのでありがたかったです。

——お子さんは?

kai.:息子に「お母ちゃん、ここでお店やろうと思うんやけど、どう思う?」って聞いたら、「ここは場所がわるいからだめだよ~」とか現実的なこと言われて(笑)。

確かに住宅街なので店舗としての立地はかなり悪いですよね。

私も「だよね。場所悪すぎだよね~。」と返すと、息子が「お客さん通らないからチラシつくろうよ!」って言ってくれて嬉しかったですね。

——しっかりした息子さん!

kai.:独立を決めてから子どもたちには「自分のことは自分でできるようになってね!」と言い聞かせてます(笑)。

下の子はまだ年中さんなので難しいですけど、上は小学校に入ったので「頼りにしてるよ!」って言うと、張り切って妹の面倒も見てくれます。お兄ちゃんなので頼られるとやる気になるみたいです。

——頼もしいですね。

kai.:実際は毎日子どもたちに怒ってばっかりなんですけどね(笑)。

でもみんなが応援してくれてるぶん、ちゃんと頑張らないとなと思ってます。

木漏れ日のようにあたたかく、お客様に寄り添えるサロンを目指して

Komorebi.自宅を改装してつくった「hair salon Komorebi.」

——「Komorebi.」という名前の由来を教えてください。

kai.:まずコンセプトから決めようと思って、自分がやりたいこととか、今の自分にできること、足りないもの…いろいろ考えて全部ノートに書き出しました。 想いがブレるから書いたほうがいいって聞いたので。

そこからどうしたらお客様に来てもらえるのかをめちゃくちゃ考えました。でも、考えれば考えるほど全然コンセプトが決まらなくて…。万人受けしようとすると結局無個性になっちゃうんですよね。

だから、自分がどうしたいかをはっきりさせようと考えた結果、最終的に「お客様が疲れたときに来たくなるようなあたたかい、心地よい場所にしたい!」にたどり着きました。

あと、もともとグリーンや自然が好きだったので、お店をやるならグリーンはたくさん置きたいと思っていて。「グリーンがあって、あたたかい、心地よい場所」にハマったのが「木漏れ日」でした。

Komorebi.

――すごく素敵な名前だと思います!コンセプトが決まって、その後はどうやってお店を作っていったんですか?

kai.:ずっと担当させてもらっているお客様の名前を全員書き出して、「○○さんに来てもらいたいからあれを用意しよう」という感じで、具体的にイメージしながら決めていきました。

シャンプーのときに頭が下がる姿勢が苦手な方がいたので、高さや角度を調節できるシャンプー台にしたり、足が不自由な方や車いすの方もいたのでバリアフリーにしたり。

パーマやカラーの薬剤もできるだけお客様にやさしい、においや刺激が弱めの自然派で高品質なものを選びました。

――なるほど。バリアフリーの美容室はまだまだ少ない印象ですが、そこにはこだわりがあったんですか?

kai.:そうですね。バリアフリーの美容室っていうと、あんまりおしゃれじゃないというか、ちょっと福祉施設みたいなイメージがあるじゃないですか。

でも、車いすでも若い女の子とか、おしゃれな美容院に行きたい方もいると思うんですよね。そういうお客様にも来たいと思ってもらえる場所にしたいなと思いました。

バリアフリー車いすやベビーカーでも来店しやすいスロープ付きの入り口

あとこれまで勤めていたお店では、足が不自由なお客様が来てくださったときにスムーズに案内できないことがあったんです。狭いスペースで段差もあるのでどうしても時間がかかってしまって…。

でも、大きいお店はもちろん、いくら少人数でも他のお客様やスタッフがいると、一人ひとりのお客様に合わせて対応を変えるのはなかなか難しいんですよね。お客様にも気を遣わせてしまうし。そこにもどかしさを感じたのも独立を考えるようになった理由の一つです。

自分一人でお客様も一人ならそういうときもちゃんと対応できるし、来られない人には車で迎えに行くこともできるし、訪問美容にも行ける。

もちろん他のお客様に迷惑をかけないように上手く調整していかないとダメですけど。

――「訪問美容」は、お客様の自宅に行ってカットするんですか?

kai.:そう、母の知り合いで車いすの方がいて、定期的にお家に行ってカットをさせてもらってます。

それから病院や福祉施設での訪問美容を専門でやっているところもあって、そこのスタッフとしてときどきお手伝いに行かせてもらったりもしています。

――以前から訪問美容には行かれていたんですか?

kai.:行けるときはそうですね。でもパートで働いてるとただでさえ子どものことで融通利かせてもらってるのに、さらに訪問美容で…ってなるとなかなか難しくて。

これからは自分で調整できるので、訪問美容ももっと行きたいと思っています。

――お店に来てもらうだけじゃないんですね。

kai.:普通、美容院ってお客様が来るのをただ待つしかないじゃないですか。

でも、ずっと担当させてもらってたおばあちゃんがいきなり来なくなったりすることがあるんですよ。それでもこっちからは何も連絡できなくて、そこで終わっちゃうんですよね…。病院や施設に入られたり、亡くなってしまったりしたら。なんだかそれが私はすごく悲しくて……。

私なんかでも何かがいいと思って続けて来てもらえてたなら、私にできることはもっとやってあげたいと思うんですよね。

だから、もし来てもらうのが難しいなら、私が行けるようにしておけば一生やってあげられるかなと思って。

おしゃれ美容師にはなれなかった自分にできること

――なかなかそこまで考えてくれる美容師さんは少ないと思います。kai.さんがお仕事をする上で大切にしていることはありますか?

kai.:お客様一人ひとりに合わせることですね。

先輩たちはみんなおしゃれで、かっこよくて、おしゃべりも上手で、でも私はどれもダメ…じゃあ自分には何ができる?ってなったときに、たどりついたのがそこだったのかな。

お客様が求めるカットをするのもですけど、シャンプーの時間が短めがいい人には短めにしたり、話がしたい人とはいろいろお話したり。逆にほうっておいてほしい人もいると思うので、そういうときは必要以上に話しかけないでゆっくり過ごしてもらうとか。

できていないことも多くてまだまだなんですけどね。

――kai.さんにとって美容師の魅力は何ですか?

kai.:やっぱりお客様に喜んでもらえることです!しかもその場で直接反応をもらえるのが嬉しい!

カットでもシャンプーでも、美容師にとっては当たり前にできることでもすごく喜んでもらえると、「こんなことで喜んでもらえるなら、いくらでもやりますよ!」って思います。

それに美容師をしていると、お客様に2〜3ヶ月に1回は会えて、もし気に入ってもらえたら一生会えるじゃないですか。

お客様に起こった日々の嬉しいことや大変だったことを聞かせてもらえて、一緒に喜んだり悩んだりできる。ご年配のお客様からは、これまでされてきたいろんな経験や歴史を聞かせてもらえて、学ばせてもらうこともすごく多いんです。

お客様の人生のそばにいられて、節目節目に関わらせてもらえるのが本当にありがたくて幸せで。こんな経験ができる仕事、なかなかないんじゃないかなと思います。

――今後挑戦したいことや夢はありますか?

kai.:訪問美容ももっとやっていきたいし、いつかカンボジアとか発展途上国に行ってカットもしたいんです。

――カンボジア…!?すごい!

kai.:日本のカットの技術はすごく高いので、それを向こうの若い子たちに教える活動があるみたいなんです。そういうのにもいつか参加できたらなぁと思っていて。

もちろん子どももいるし今すぐには無理なので、いつ実現できるか分からないですけどね。

――めちゃくちゃかっこいいです!他に何かやりたいことはありますか?

kai.:近いうちにやりたいのは、児童養護施設のカットのボランティアです。

カンボジアに行きたいのもそうなんですけど、やっぱり自分に子どもがいるからか、子どもにかかわることで美容師の自分ができることをやっていきたいと思います。

まあまずは、お店を安定させないことには始まらないので、お店をちゃんと軌道に乗せることが第一ですけどね!頑張ります!

――「Komorebi.」にはどんなお客様に来てもらいたいですか?

kai.:お客様の声を聴くこと」を大事にしていきたいので、話をちゃんと聴いてほしい人に来てもらえたら嬉しいですね。

大きいお店だと「こんなこと言ってもやってもらえないかな」とか「本当はこうしてほしいけど…」とか、いろいろ思ってることを言えないお客様もいると思うんです。でも、ここではそんな変な気を遣ってほしくなくて!

遠慮なく何でも言ってほしいし、私ができることはやっていきたいので、お客様に気軽に相談してもらえるお店にしていきたいです。

 


 

お客様一人ひとりの顔を思い浮かべるようにゆっくりと今の想いを語ってくれたkai.さん。お店のあたたかくやさしい雰囲気は、彼女の人柄によるところも大きいのだと思います。

kai.さんのやさしい気持ちがつまった「hair salon Komorebi.」。

こんな美容室を心待ちにしていたたくさんの人たちが、彼女のもとで笑顔になっていく未来が見えるような気がしました。

INFORMATION

「hair salon Komorebi.(ヘアサロン コモレビ)」

住所:岐阜県岐阜市萱場町3-25-5(MAP
営業時間:9:00〜15:00(時間外相談可)
定休日:日曜日・祝日・月曜日
電話番号:058-337-1901
公式HP:https://hair-komorebi.jp/
Web予約はこちら

 

Text & Photo by Ayumi Hoshi(@aym_prism
画像提供:Kai.さん

この記事を書いた人
Ayumi Hoshi
Ayumi Hoshi
my prism編集長・ライター。セーラームーンとアイドルとインターネットが好きです。お問い合わせ・お仕事のご依頼などはこちら